大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2343号 決定

申立人 甲野株式会社

代表者代表取締役 乙山太郎

申立人代理人弁護士 河崎光成

同 望月健一郎

相手方 株式会社 丙川

代表者代表取締役 丁原春夫

主文

買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録記載の建物のうち四階及び五階部分(以下「本件建物」という。)に対する相手方の占有を解いて、東京地方裁判所執行官にその保管を命じる。

執行官は、その保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。

理由

一  申立人の本件申立の趣旨及び理由は、別紙「保全処分命令の申立書」記載のとおりである。

二  よって、検討するに、記録によれば、次の事実が疎明される。

(一)  申立人は、相手方所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件ビル」という。)について、当庁に抵当権実行としての競売の申立をし、平成四年六月二六日競売開始決定がなされた。

(二)  相手方は、本件ビルのうち一階を株式会社戊田に、二・三階を甲田株式会社に賃貸している。四・五階部分(本件建物)は、従前従業員の社宅として、従業員乙田竹夫に使用させていたが、同人は相手方の業績悪化を理由に平成三年一二月頃解雇されており、平成四年七月四日には本件建物から退去している。

(三)  相手方は、平成四年六月二日、二度目の手形不渡りにより事実上倒産し、登記簿上の本店所在地の事務所は後記のとおり別会社が占有しており、代表者丁原春夫の行方も不明であって、相手方が本件ビルを管理している状況にはない。

(四)  申立人は、抵当権に基づく物上代位により、相手方の前記賃借人に対する賃料債権の差押をしたところ、差押後に、申立外株式会社丙田(以下「丙田」という。)が相手方から上記賃料債権の譲渡を受けたとして、賃借人株式会社戊田らに対し、賃料の支払請求をしていることが判明した。

丙田は、株式会社戊田の社員らに、前記乙田と話をつけたと述べており、相手方の倒産間際に賃料債権の譲渡を受けていることからして、乙田が退去する際、同人から本件建物の鍵を受け取っている可能性がある。

(五)  丙田は、相手方所有の松戸市所在の土地に、東京都の滞納処分に基づく差押がなされる直前である平成四年三月六日受付で賃借権設定仮登記をしているが、同賃借権の内容は借賃一平方メートル一〇円、期間五年、借賃前期間全額支払済、譲渡・転貸ができるとの特約あり、というものであり、また、丙田は、同土地上に簡易建物を設置している。

また、申立人は、相手方所有の別のビル(その一部に相手方の事務所があった。)について、競売の申立をしたが、丙田は、相手方がこのビルの事務所を引き払った後、競売申立直前に、相手方が事務所として使用していた部屋を事務所として使用するようになった。

(六)  相手方は、前記のとおり、事実上倒産し、会社事務所が存在せず、代表者も行方不明の状態であって、別件の競売事件において、公示送達の申立がなされ、平成四年七月三日これが許可された。

三  以上認定の事実、すなわち、相手方は倒産し、本件建物について管理していない状況であること、相手方は、本件ビルについての賃料債権を丙田に譲渡しており、本件建物の管理についても丙田に委ねたと思われること、丙田は、相手方が使用していた競売物件である別のビルの一部を競売直前から使用しており、また、相手方所有の土地につき執行妨害目的で賃借権の設定を受け、簡易建物を設置するなどしていることに鑑みれば、本件建物をこのまま放置するときは、丙田が執行妨害を目的として、自らあるいは第三者をして、本件建物を占有する可能性が高いものと認められる。このような執行妨害を目的とする者が本件建物を占有するに至ったときは、これとの交渉を嫌い、一般の買受人が入札を躊躇することとなり、買受人の出現が困難になることは明らかであり、そのために、本件建物の価格は著しく減少することとなる。

そして、相手方は、現在事務所が存在せず、代表者も行方不明の状態にあり、民事執行法五五条一項の保全処分(禁止命令)を発しても、実効性のないことが明らかであるから、同条一項の保全処分を発することなく直ちに本件建物につき同条二項の執行官保管の保全処分を発することができるというべきである。

以上によれば、申立人の本件申立は理由があるから、申立人に金二〇〇万円の担保をたてさせたうえ、民事執行法五五条二項(同法一八八条)に基づき、主文のとおり決定する。

(裁判官 松丸伸一郎)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例